墓じまいを決めるのに制度が求めるのは名義人の承諾まで|兄弟全員の同意書は不要、家族で「決めていい人」をつくる方法
執筆・編集: 大久保亮佑(株式会社Kogera代表/生前整理アドバイザー2級)
更新日: 2026年9月2日
墓じまいを誰が決めるのか。制度が答えているのは「改葬許可申請には墓地使用者(名義人)の承諾が要る」というところまでで、きょうだい全員の同意書は求められていません。決め方の大部分は、家族が自分たちで組み立てることになります。
「勝手に決めたと言われたくない」。墓じまいを考えはじめた方から、いちばんよく聞くのがこの心配です。自分に決める資格があるのか、どこまで一人で進めていいのか。判断の前に、権限のありかで手が止まってしまう。制度が決めている範囲と、家族の中で「決めていい人」をつくる方法を整理します。
この記事の要点
| 制度が求める範囲 | 改葬許可申請に必要なのは墓地使用者(名義人)の承諾書まで(施行規則第2条)。全員の同意書は法定書類ではない |
|---|---|
| ずれやすい3つの役割 | 名義人・実際に動く人・費用を出す人。同じ人に揃っている家庭は少数 |
| 詰まりやすい場面 | 名義人が高齢・遠方/名義人が故人/名義人が不明/親族と連絡がつかない |
| 家族の側でつくる | 決定権は集めず、進行役だけ決める。権限ではなく役割で配る。反対を言える場を先に作る |
| 2026年の調査 | 墓じまいパートナーズの調査(n=230)で、大変だったことの1位は「お寺とのやり取り」38.5%。鎌倉新書の第4回調査(n=733)では実施時の課題に「役所の手続き」。誰が担うかを先に決めておく理由 |
制度が決めているのは、どこまでか
お墓を引き継ぐ人(祭祀承継者)については、民法897条に定めがあります。故人の指定、慣習、家庭裁判所——この順で、ひとりに承継される。ただしそこで決まるのは所有権の行き先であって、「墓じまいをするかどうかを誰が決めるか」ではありません。条文の原文と、費用負担との関係は費用は誰が払うかの記事で整理しました。ここでは重ねません。
手続きの側にも決まりがあります。遺骨を移すときの改葬許可申請では、申請者が墓地使用者本人でない場合に墓地使用者等の承諾書が法定の添付書類になります(墓地、埋葬等に関する法律施行規則 第2条)。裏を返せば、制度が求めているのはそこまで。きょうだい全員の同意書を出しなさい、とはどこにも書かれていません。「改葬」という言葉の法律上の意味は改葬とはの記事に、申請先の市区町村ごとの手数料や郵送の可否は自治体別データベースにまとめてあります。
つまり制度上は、名義人ひとりの意思で手続きが進んでしまう構造になっています。ここが、この問題のいちばん厄介なところです。書類が揃うことと、家族が納得していることは、まったく別の話ですから。「勝手に決めたと言われたくない」という心配は、制度の側からは解消されません。家族の側で手当てするしかない領域なのです。
名義人・動く人・お金を出す人は、たいていずれる
話を進める前に、絡まりやすい3つの役割をほどいておきます。①墓地の名義人(墓地使用者)——墓地の使用許可証や契約書に名前が載っている人。②実際に手続きを進める人——役所や寺院に連絡し、書類を集める人。③費用を負担する人。
この3つが同じ人に揃っている家庭は、むしろ少数です。名義は遠方に住む高齢の親、動くのは近くに住む子、費用はきょうだいで分担。よくある形でしょう。役割がずれること自体は問題ではありません。困るのは、ずれていることを誰も言語化しないまま話が進むときです。「決めたのは誰なのか」が曖昧なまま完了してしまうと、後から不満が出やすくなります。
新しい供養先の契約者を誰にするかも、同じ論点を含みます。契約者は、その後の管理料の請求先であり、解約や追加の納骨を判断する立場でもある。分担額を決めるタイミングで、あわせて決めておきたいところです。額の目安は総額の内訳と費用シミュレーターで先に見ておくと、分担の話が具体的になります。
実務で詰まりやすい4つの場面
相談の多くは、権利の理屈ではなく段取りのところで止まっています。頻度の高い4つを挙げます。
①名義人が高齢・遠方で、窓口に行けない。このときは「申請者を誰にするか」から考えます。名義人を申請者のままにして子が窓口や郵送を担う形と、子を申請者にして名義人の承諾書を添える形。どちらになるかは自治体の運用で変わります。委任状の要否とあわせて代理申請の記事にまとめました。
②名義人がすでに亡くなっている。実は、これがいちばん多い詰まり方です。名義が亡くなった親のままになっているケースでは、まず墓地の名義変更(承継手続き)が必要になることがあります。手続きの中身と必要書類は墓地の使用規則によって違い、公営墓地・寺院墓地・民営霊園でも扱いが分かれます。改葬許可の窓口でも運用が一様ではないため、墓地の管理者と役所の両方に確認するのが結局のところ近道です。承継を先に求める自治体と戸籍で受け付ける自治体の公式文言は名義人が亡くなった場合の改葬許可申請に集めています。継ぐ人がそもそも見当たらない場合は承継者がいないときの記事を。
③そもそも名義人が誰か分からない。墓地の使用許可証、管理料の請求書、引き落としの通帳の記録。この3つのどれかから辿れることがほとんどです。管理者に問い合わせれば、名義がどうなっているかは教えてもらえます。
④名義人や親族と連絡がつかない。疎遠になっている親族がいる場合、いきなり承諾の話から入ると、それだけで身構えられます。近況を尋ねる連絡を先に置く。急ぐ理由が本当にないのなら、返事を待つ時間も持てます。連絡がつかない状態が長く続き、手続きが動かせないなら、後述する専門家への相談も選択肢に入ります。
費用の分担の型と、家族の同意書に書いておきたい項目は親族の同意の記事に整理しています。
「決めていい人」は、家族の側でつくる
ここからが本題です。制度が名義人に認めている権限と、家族の中で「この人が決めていい」と皆が思える状態は、別のものとして扱ったほうがうまくいきます。後者は、話し合いのやり方で作れます。
決定権をひとりに集めない。ただし進行役はひとりにする。全員で決めようとすると誰も決められず、ひとりで決めると角が立つ。あいだを取るなら、進行と記録を担う人だけを決めておく形です。その人は「決める人」ではなく「話を前に運ぶ人」だと最初に言っておくと、負担も警戒も軽くなります。
権限ではなく役割で配る。お寺に管理料の扱いを聞く人。役所の必要書類を調べる人。費用の目安を試算する人。記録を残す人。関わり方が具体的にあるだけで、「自分は蚊帳の外だった」という感覚は生まれにくくなります。作業量の多さより、関与の有無のほうが後の納得を左右します。
役割のうち、先に担当を決めておきたいのが「お寺」と「役所」です。墓じまいパートナーズが2026年3月に公表した調査(経験者・検討者230人)では、大変だったことの1位が「お寺とのやり取り」で38.5%でした。鎌倉新書の第4回調査(2026年1月、n=733)でも、実施時の課題として「役所の手続き」が上位に挙がっています。この2つは、誰が窓口になるかが曖昧なまま進むと止まります。名義人が高齢なら、名義人と一緒に動く人を決めておく。それだけで、後の「聞いていない」は減ります。
反対を言える場を、先に作っておく。「反対の人はいますか」と聞いても、たいてい手は挙がりません。「引っかかっているところがあれば、いま聞かせてほしい」という尋ね方に変える。異論が出ないまま進んだ合意は、進行中の段階でひっくり返りがちです。早い段階で違和感を出してもらったほうが、結果的に速い。
「聞いていない」を生まないための共有
親族間のこじれは、判断の中身より「知らされていなかった」という経緯から起きることが少なくありません。防ぎ方はそれほど難しくありません。
同じ情報を、同じタイミングで、全員に渡す。決まったことだけでなく、まだ決まっていないことこそ書いて共有する。この2つで、かなりの部分は防げます。口頭で伝えた内容は、伝えた側と受け取った側で必ずずれますから、紙かメッセージの文面で残しておくのが確実です。
書く形が決まっていたほうが書きやすい、という方には説明資料テンプレートを用意しています。いまのお墓の状況、考えはじめたきっかけ、検討している選択肢、そして「まだ決まっていないこと」を書き込んで渡せるA4の用紙です。全員に同じ紙が渡っている——それだけで、話の土台は揃います。
判断がつかないときの相談先
窓口は、内容によって分かれます。墓地の使用規則や名義変更の手続きは墓地の管理者(寺院・霊園・自治体)へ。改葬許可の必要書類や運用はお墓のある市区町村の窓口へ。ここまでは、家族が自分で確認できる範囲です。
承継や名義そのものに深刻な争いがあり、当事者間では動かせない場合には、弁護士など法律の専門家に相談するという一般的な選択肢があります。民法897条2項には、慣習が明らかでないときに祭祀承継者を家庭裁判所が定める仕組みもあります。
なお当サイトでは個別の法律相談は行いません。ここで整理したのは制度の一般的な仕組みと、家族の中での進め方の考え方です。ご自身のケースにどの規定がどう当てはまるかの判断は、資格のある専門家か、公的な相談窓口にご確認ください。確認すべき項目の整理や公式情報の探し方で迷うときは、無料相談フォームからお知らせください。
よくある質問
回答は法令の条文と、出典を明記した2026年の調査の範囲で書いています。個別の権利関係の判断は、資格のある専門家か公的な相談窓口にご確認ください。
墓じまいは、誰の許可が必要ですか?
手続きの面では、遺骨を移すための改葬許可をお墓のある市区町村から受けます。その申請で、申請者が墓地使用者(名義人)本人でない場合に必要なのが、墓地使用者の承諾書です(墓地、埋葬等に関する法律施行規則 第2条)。制度が求めているのはそこまでで、きょうだい全員の同意書は法定の書類ではありません。墓地の返還や名義の扱いは、これとは別に墓地の使用規則にもとづいて管理者と進めます。
墓じまいは長男が決めるものですか?
法律にそうした定めはありません。お墓を引き継ぐ人(祭祀承継者)について民法897条が定めているのは「被相続人の指定」「慣習」「家庭裁判所」の順で、長男と決まっているわけではありません。しかもそこで決まるのは所有権の行き先であって、墓じまいをするかどうかを誰が決めるかではありません。家族の中で「この人が決めていい」と皆が思える状態は、話し合いのやり方でつくるものです。
名義人がすでに亡くなっている場合、誰が墓じまいを決めますか?
まず墓地の名義変更(承継手続き)が必要になることがあります。手続きの中身と必要書類は墓地の使用規則によって違い、公営墓地・寺院墓地・民営霊園でも扱いが分かれます。改葬許可の窓口でも運用が一様ではないため、墓地の管理者と、お墓のある市区町村の両方に確認するのが近道です。名義が誰か分からないときは、使用許可証・管理料の請求書・引き落としの通帳の記録から辿れます。
兄弟の同意なしに墓じまいはできますか?
制度上は、名義人の承諾書があれば改葬許可の申請は成り立ちます。ただし、書類が揃うことと家族が納得していることは別の話です。「知らされていなかった」という経緯は、判断の中身より強くこじれの原因になります。同じ情報を同じタイミングで全員に渡し、まだ決まっていないことも書いて共有する。承継や名義そのものに深刻な争いがあるときは、弁護士など法律の専門家に相談するという一般的な選択肢があります。当サイトでは個別の法律相談は行いません。
墓じまいの費用は、誰が払うのですか?
法律上、費用負担の明文規定はなく、分担は家族の合意で決めるものです。名義人・実際に手続きを進める人・費用を負担する人は、たいてい別の人になります。役割がずれること自体は問題ではなく、困るのは、ずれていることを誰も言葉にしないまま話が進むときです。民法897条との関係や分担の考え方は、当サイトの「墓じまいの費用は誰が払う?」で整理しています。
次の一歩: 役割を紙に書き出す
誰が決めていいのか——この問いは、突き詰めると「誰が何を担っているのかが見えていない」という状態から生まれます。名義人は誰か。動くのは誰か。費用はどうするか。まだ決まっていないことは何か。書き出してみると、思っていたほど対立していなかった、と分かることもあります。
書き出したものを持って、家族で話す場を作る段階に来たら、家族会議の進め方へ。急ぐ理由が見当たらないなら、「様子見」という結論を選んでも構いません。決めないと決めることも、家族で共有できていれば立派な合意です。
参照元
- 民法(明治二十九年法律第八十九号)第897条(e-Gov法令検索)〔2026年9月2日〕
- 墓地、埋葬等に関する法律施行規則(e-Gov法令検索)第2条(改葬許可申請の添付書類)〔2026年9月2日〕
- 墓じまいパートナーズ「墓じまい実態調査2026」(2026年3月、n=230)〔2026年9月2日〕
- 鎌倉新書「第4回 改葬・墓じまいに関する実態調査」(2026年1月実施、n=733)〔2026年9月2日〕
- 当サイト「墓じまいの費用は誰が払う?」(民法897条の条文整理)〔2026年8月17日〕
執筆・編集
大久保亮佑株式会社Kogera代表
生前整理アドバイザー2級(一般社団法人生前整理普及協会、2026年5月取得)
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