墓じまいの費用は誰が払う?民法897条と分担の考え方

大久保亮佑

執筆・編集: 大久保亮佑株式会社Kogera代表生前整理アドバイザー2級

更新日: 2026年8月8日

墓じまいの話が具体的になると、必ず出てくるのが「で、費用は誰が持つのか」という問題です。長男だから、お墓を継いだから、実家の近くに住んでいるから——それぞれの立場に、それぞれの言い分があります。

実は、この問いに直接答える法律の条文はありません。明治29年制定の民法897条が定めているのは「お墓の所有権を誰が承継するか」であり、「費用を誰が払うか」ではないのです。この記事では、条文の原文と、実際に家族で分担を決めるときの考え方を整理します。

結論: 法律に「誰が払う」の明文はない

先に結論をお伝えします。墓じまい(改葬)の費用を誰が負担するかを直接定めた法律の条文は、 当サイトが確認した範囲では存在しません。よく引き合いに出される民法897条は「祭祀財産 (お墓・仏壇・家系図など)の所有権を誰が承継するか」を定めた条文であり、 「費用を誰が払うか」を命じる条文ではないのです。

したがって実際の負担の決め方は、大きく3つに分かれます。①お墓を承継した人(祭祀承継者)が 持つ、②兄弟姉妹・親族で分担する、③これから供養を主に担う人が持つ——どれかが法律上 「正しい」わけではなく、家族の事情に応じた合意で決めるのが実情です。

法的な土台: 民法897条の原文

まず、唯一の法的な土台である民法897条(祭祀に関する権利の承継)の原文を見てみます。

第1項「系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って 祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が あるときは、その者が承継する。」

第2項「前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき 者は、家庭裁判所が定める。」

ポイントは3つあります。第一に、お墓は通常の相続財産とは別枠で、慣習→故人の指定→ 家庭裁判所の順で「祭祀を主宰すべき者」ひとりに承継されること。第二に、承継されるのは 「所有権」であって、費用負担の義務ではないこと。第三に、承継者は長男に限られないこと (条文に続柄の指定はありません)。「うちは長男が継ぐものだ」という感覚は慣習としては 根強いものの、法律上の決まりではありません。

実務では「祭祀承継者が負担」とされることが多い

一方で、法律実務の解説では「お墓の所有権が祭祀承継者に帰属する以上、その管理・処分にかかる 費用も承継者が負担するのが原則」と説明されることが多くあります。これは筋の通った考え方ですが、 あくまで解釈・見解であり、法令の明文規定ではありません。当サイトが法テラス・ 国民生活センターなど公的機関の公開情報を確認した範囲でも、「祭祀承継者に費用負担の法的義務が ある」と明記した公的文書は見つかりませんでした。裁判所の公式判例検索でも、墓じまい費用の負担に 固有の判例は確認できていません。

つまり「祭祀承継者が払うべき」と「みんなで分担すべき」のどちらかが法的に正解、という構図では ないのです。この前提を家族で共有できると、「誰が正しいか」の議論から「どう分けるのが現実的か」 の相談に切り替えやすくなります。

兄弟姉妹で分担を決めるときの考え方

分担の話し合いでは、順番が大切です。おすすめは金額を見えるようにしてから、分け方を 話すこと。総額が分からないまま「払える・払えない」を議論すると、不安どうしが ぶつかりやすいからです。当サイトの費用シミュレーターは、墓地の種類・面積・改葬先など3つの 質問で総額と内訳の目安を試算できます(登録不要)。

分け方の実例としては、①均等割(兄弟姉妹で同額ずつ)、②承継者が多めに持ち残りを分担、 ③墓石撤去などの一時費用は分担し、新しい供養先の年会費・管理費は承継者が持つ、といった 組み合わせがあります。お墓参りの頻度や、これまで誰が管理料を払ってきたかといった経緯も 考慮材料になります。ここでも「こう分けるべき」という正解はなく、切り出し方の記事で整理しているとおり、結論を急がないことが最終的な納得感につながります。

ひとつ注意したいのは、費用を出す人と、祭祀を主宰する人(承継者)がずれる場合です。たとえば「費用は兄弟で分担したが、改葬許可の申請名義や新しい供養先の契約者は長女」の ような形は実務上よくあります。契約者・名義人が誰になるのかは、後々の管理・解約にも関わるため、 費用の分担額とあわせて決めておくと行き違いを防げます。

まとまらない場合・払えない場合

話し合いがまとまらない場合、民法897条2項は「祭祀承継者を家庭裁判所が定める」手続きを用意して いますが、これはあくまで承継者を決める手続きであり、費用の分担割合を決めて くれる制度ではありません。費用の分担そのものについて深刻な対立がある場合は、弁護士など法律の 専門家に相談する選択肢があります(当サイトは個別の法律相談には応じられません)。

また、「分担してもなお負担が重い」という場合には、費用自体を抑える方向の検討も有効です。 総額の中で大きく動くのは墓石撤去費と新しい供養先の費用で、選び方によって数十万円単位で 変わります。払えないときの選択肢の記事では、「今はしない・様子見」も含めた現実的な選択肢を整理しています。

次の一歩: 金額を見えるようにしてから話す

「誰が払うか」は、金額が見えないうちは感情の問題になりやすく、金額が見えると計算の問題に 変わります。まずはご自身のケースの総額目安を確認し、それを持って家族との話し合いに 臨んでください。誰か一人が抱え込む前提ではなく、「この金額を、うちの家族はどう分けるのが 現実的か」という問いから始めるのが、遠回りに見えて確実な道です。

大久保亮佑

執筆・編集

大久保亮佑株式会社Kogera代表

生前整理アドバイザー2級(一般社団法人生前整理普及協会、2026年5月取得)

墓じまい・改葬の費用と手続きを、自治体・省庁の一次情報や公的統計にあたって整理しています。 掲載内容の企画・データ調査・編集の最終責任を負っています。

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